凪良ゆう『汝、星のごとく』感想・レビュー

自己紹介

もどかしくも美しい愛の物語

凪良ゆうさんの『汝、星のごとく』は、2023年本屋大賞を受賞した長編小説です。

凪良ゆうさんは、2020年にも『流浪の月』で本屋大賞を受賞しており、本屋大賞を2度受賞した作家としても大きな注目を集めています。『汝、星のごとく』は、そんな凪良ゆうさんの魅力である生きづらさを抱えた人々の描写と、痛みを伴う愛の物語が強く表れた作品です。

あらすじ

主人公は、高校生の暁海と、同級生の櫂の2人です。

2人には共通点がありました。それは、どちらも父親がいないこと。そして、唯一の親である母親が、性格的に大きな問題を抱えていることです。

いわゆる毒親という同じ悩みを抱える暁海と櫂は、自然と惹かれ合っていきます。

しかし、2人の人生は決して簡単には進みません。家庭環境、島という閉じた場所、人間関係、そしてそれぞれの選択によって、2人は何度もすれ違っていきます。

暁海と櫂の成長、すれ違い、そして人生そのものを描いた、美しくも悲しい愛の物語です。

感想・おすすめポイント

もどかしさを感じる物語

本作を読んでいて強く感じるのは、どうしようもないもどかしさです。

暁海と櫂の親は、第三者の目線で見ると、かなり問題のある人物として描かれています。だからこそ、早く親から離れればいい、縁を切ってしまえばいいと思ってしまう場面もあります。

しかし、主人公たちにはそれができません。

それは優しさでもあり、弱さでもあります。ただ、それ以上に「親だから」という本能的な感情が、2人を縛っています。どれだけ傷つけられても、どれだけ苦しめられても、簡単には親を見放せない。その感情が、とてもリアルに描かれています。

さらに、舞台が島であることも、もどかしさを強めています。田舎の閉じたコミュニティでは、親の悪い噂もすぐに広まります。そして、その子供である暁海と櫂まで、偏見の目で見られてしまいます。

そんな島から出ていけばいいはずなのに、親を見捨てられないために、それも簡単にはできない。この身動きの取れなさが、本作の大きな苦しさになっています。

輝いて見える二人の時間

どうしようもない環境にいるからこそ、暁海と櫂が一緒に過ごす時間はとても輝いて見えます。

高校生の2人が、信頼できる相手と将来の夢について語り合う。恋人として、互いの存在を支えにしながら日々を過ごす。そうした場面には、派手な出来事があるわけではありません。

それでも、その時間がとても尊く感じられます。

凪良ゆうさんの凄さは、こうしたキラキラした時間を、過剰にドラマチックに描かないところだと思います。あくまでさりげなく、日常の一部として描いているからこそ、後から振り返ったときに胸に残ります。

その瞬間を過ごしている当時は気づかないけれど、後になって思い返すと、とても大切な時間だったと分かる。そういう人生の一場面を、非常に自然に描いている作品です。

厚みのある大人たちの描写

本作には、暁海と櫂の親のように、どうしようもない大人だけが出てくるわけではありません。2人に親身に寄り添ってくれる大人も登場します。

ただ、その大人たちも決して完璧な人間ではありません。過去に何かしら道を踏み外したことがある大人ばかりです。

自分のした罪を受け入れ、罰を受け入れながら生きていくのか。あるいは、誰に何を言われても、自分のした行為に責任を持って生きていくのか。

大人たちにもそれぞれの過去があり、それぞれの痛みがあります。脇役として配置されている人物にも一人一人に厚みがあり、物語全体に深みを与えています。

暁海と櫂だけでなく、周囲の大人たちの人生までしっかり描かれているところも、本作の大きな読み応えです。

衝撃的な書き出し

『汝、星のごとく』は、冒頭の一文も非常に印象的です。

「月に一度、わたしの夫は恋人に会いにいく」

この一文だけで、強烈に先が気になります。

夫が恋人に会いに行くとはどういうことなのか。語り手はそれをどう受け止めているのか。そこにどんな関係性があるのか。

短い一文の中に、物語の謎と人間関係の複雑さが詰まっています。読者を一気に作品世界へ引き込む、非常に印象に残る一文です。

現代社会への問いかけ

凪良ゆうさんの作品には、「ただ普通に生きたいだけなのに、それがなんでこんなに難しいのか」という叫びのようなものがあります。

『流浪の月』にも通じる部分ですが、本作でも、登場人物たちは特別な幸せを望んでいるわけではありません。ただ普通に生きたいだけです。大切な人と穏やかに過ごしたいだけです。

それなのに、家庭環境、世間の目、経済的な問題、人間関係、過去の選択が、普通に生きることを難しくしていきます。

この感覚は、現代社会を生きる多くの人に刺さる部分だと思います。誰もが何かしらのしがらみを抱えながら、それでも自分の人生を生きようとしている。凪良ゆうさんの作品が多くの読者に支持されている理由も、そこにあるのかもしれません。

まとめ

本作は、暁海と櫂という2人の人生を通して、愛、家族、責任、生きづらさを描いた長編小説です。

親を見放せないもどかしさ、閉じた島で生きる息苦しさ、そしてそんな環境の中で輝く2人の時間が、丁寧に描かれています。

また、主人公たちだけでなく、周囲の大人たちにも厚みがあり、それぞれの人生が物語に深みを与えています。衝撃的な書き出しから始まり、最後まで人の生き方について考えさせられる作品です。

美しくも悲しい愛の物語でありながら、現代社会の生きづらさにも強く響く一冊です。

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