若林正恭『青天』感想・レビュー

自己紹介

男臭くて泥臭い、クセになる青春小説

本作は、お笑いコンビ・オードリーの若林正恭さんによる初小説です。

芸人としての活動だけでなく、エッセイやラジオでも言葉の面白さが注目されてきた若林さんですが、本作はデビュー作にして直木賞にノミネートされた作品でもあります。

アメフトを題材にしながらも、いわゆる王道のスポ根小説というより、男子高校生ならではの不安、葛藤、不器用さを描いた青春小説です。

あらすじ

主人公は、弱小アメフト部に所属する高校3年生。通称「アリ」です。

高校最後のアメフトの大会で、アリのチームは強豪校と対戦します。しかし、結果は呆気ない敗退。アリたちの高校生活におけるアメフトは、そこで一区切りを迎えます。

引退後のアリは、受験勉強に打ち込むわけでもなく、かといって不良にもなりきれません。何かに全力で向かうこともできず、中途半端な日常を過ごしていきます。

アメフトを失ったあとに残る、行き場のないエネルギー。将来への不安。自分でもどう扱えばいいのか分からない感情。

そんな男子高校生ならではの葛藤と、どうしようもない不器用さを描いた青春小説です。

感想・おすすめポイント

デビュー作で直木賞候補

本作は、若林正恭さんにとって初めての小説です。

芸人としてだけでなく、エッセイやラジオでの言葉選びにも定評のある若林さんなので、小説としても注目度の高い作品ではありました。ただ、デビュー作で直木賞候補に入ったという点には、良い意味で驚かされます。

本屋大賞候補として話題になる可能性は十分にありそうな作品でしたが、まさか直木賞ノミネートまで届くとは思わなかった、という印象です。

それだけ本作には、単なる有名人の小説では終わらない力があります。若林さんらしい視点と語り口がありながら、しっかり青春小説として読ませる作品になっています。

「男子高校生という生き物の生態」にフォーカス

本作のテーマはアメフトです。タイトルの『青天』もアメフト用語です。

ただ、個人的な印象としては、スポ根小説というよりも、「男子高校生という生き物の生態」にフォーカスした小説だと感じます。

男子高校生の持っているエネルギーや体力は膨大です。しかし、そのエネルギーをどこにぶつければいいのか、どう使えばいいのかが分からない。その感じが、本作ではとてもリアルに描かれています。

主人公のアリは、それまで自分のエネルギーをアメフトにぶつけてきました。しかし、高校最後の大会で敗退し、アメフトが突然なくなってしまいます。

その結果、自分の中にあるエネルギーをどう発散したらいいのか分からなくなり、変な方向へ向かってしまいます。

その姿は、決して格好良いものではありません。むしろ、ダサくて、不器用で、見ていて情けなくなる部分もあります。しかし、そのダサさの描き方がとても見事です。

過去の自分を思い出してしまうような、妙に生々しい共感があります。男子高校生特有の、無駄に力が余っている感じ、でも何者にもなれていない感じが、かなりリアルに伝わってきます。

男臭い語り口調

他に大きな特徴として、語り口調の男臭さがあります。

会話文だけでなく、地の文にもかなり勢いがあります。「〇〇してんじゃねえ」「ふざけんじゃねえ」といった、べらんめえ口調に近い言葉遣いが多く使われています。

この文体は、もしかすると好みが分かれる部分かもしれません。

ただ、本作においては、その語り口が作品の雰囲気に合っています。主人公の感情が文章からダイレクトに伝わってきますし、小説全体の泥臭くて男臭い空気をうまく作っています。

きれいに整った青春ではなく、汗臭くて、不器用で、少し乱暴で、でもどこか愛おしい青春。その雰囲気を表現するうえで、この文体はかなり効果的です。

アメフトを知らなくても楽しめる

本作はアメフトを題材にしていますが、アメフトの知識がなくても楽しめる作品です。

競技の細かいルールや戦術を知らないと読めないタイプの小説ではありません。むしろ中心にあるのは、アメフトそのものよりも、アメフトを失ったあとのアリの心の揺れです。

部活に打ち込んでいた時間が終わったあと、何をすればいいのか分からなくなる。自分の価値がどこにあるのか分からなくなる。そんな感覚が物語の軸になっています。

そのため、アメフト経験者でなくても、部活や学校生活、青春時代の中途半端な感情に覚えがある人なら、自然と入り込める作品です。

若林さん自身の経験が反映されている空気感

『青天』には、若林正恭さん自身の経験が反映されているような空気感があります。

たとえば、男子校の雰囲気や、少し昭和っぽさの残る時代背景。そこに流れている泥臭さや、男同士の距離感には、どこか実感のこもったリアリティがあります。

オードリーのラジオを聴いている人にとっては、若林さんがこれまで語ってきた感覚と重なる部分も多く感じられる作品です。

ただし、ラジオの延長として読む小説というより、若林さんの中にある青春の記憶や、男子高校生へのまなざしが小説という形になった作品という印象です。

男臭くて、泥臭くて、格好悪い。けれど、その格好悪さがだんだんクセになっていく。『青天』には、そんな不思議な魅力があります。

まとめ

アメフトを題材にしながらも、スポ根小説というより、男子高校生の不安定さや不器用さを描いた青春小説。

高校最後の大会に敗れ、打ち込んできたものを失った主人公・アリ。受験にも不良にも振り切れず、中途半端な日常を過ごす姿には、青春の格好悪さが詰まっています。

男臭い語り口調は好みが分かれるかもしれませんが、主人公の感情や作品全体の雰囲気を強く支えています。アメフトを知らなくても楽しめる読みやすさがあり、若林さん自身の経験がにじむようなリアリティも魅力です。

デビュー作にして直木賞候補となったのも納得できる、泥臭くてクセになる青春小説です。

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