直木賞候補作(2025年下期)のレビュー 4/5【家族】

直木賞(2025年下期)

2025年の直木賞ノミネート作品について書いております。

前も書きましたが、受賞作以外の作品も落選の一言で終わらせるには

あまりにももったいない!

そう思って、全5作品の魅力について発信しております。

※ネタバレはありませんのでご安心を。

ご紹介する四作目は

家族(葉真中顕です!

あらすじ

こちらは、現実で起こったある事件をモチーフにしたクライムサスペンスとなっています。

ある日、憔悴し切ったた女性が、全裸の状態で交番に駆け込みまして、そこで本作品の根幹になっている事件が発覚します。

どうやらその事件の内容は、ある女がいろんな人から金を騙し取っているらしいとのこと。

その「ある女」というのは元々警察内でも名前が出るくらいの若干名物的な人物だったのですが、見た目も凡庸な中年女性ということで、とても大それた犯行を行なっているとは当初考えられていませんでした。

しかし、警察に駆け込んだ女性が保護されたことをきっかけに、徐々に事件の輪郭が分かっているのですが、それがとにかく恐ろしいんですよね。

夥しい数の「監禁」「暴行」そして「殺人」が行われていたこと、それが何十年も警察に尻尾を掴まれなかったこと、何より恐ろしいのが、被害者自身がそれほど酷い目に遭っておきながら、警察にも駆け込まず、主犯の女の言いなりになっていたことです。

これほどまでに残忍な犯行を、一見平凡な中年女性がどのように行なっていたのか、またそれまでの犯行に至ったまでの動機は何か。そして被害者はなぜそんな女の言いなりになってしまったのかといった被害者心理。

そう言ったものが、複数の加害者及び被害者の視点を通して明らかになっていくといった物語でございます。

感想

感想を一言で言うと、この小説、怖かったです(小並感)。

暴行シーンなどのグロテスクなシーンも、ぼやかされているとはいえ描かれていますので、そう言った表現が全く苦手な方にはちょっとおすすめし辛い小説です。

この小説のモチーフとなっている事件なのですが、2012年に発覚した通称「尼崎事件」を元にしております。僕はそちらの事件はあまり知らなかったのですけれど、似た事件として2002年に発覚した「北九州連続殺人事件」がありますね。

僕はあらすじとタイトルを見て、最初は北九州の方かなと思ったのですが、まさかこんな恐ろしい事件が他にも現実で起こっていたとはと衝撃を受けました

犯人はあらすじの通り、ただの中年女性です。彼女がなぜここまで大掛かりな犯行を行うことができたかという点ですけれど、一言で言うと「洗脳」です。

とにかく話術に長けておりまして、被害者を自分に依存させる手口ですとか、弱みを聞き出す能力というのがとにかく優れております。それらを駆使して、被害者同士がたとえ家族だったとしても互いを疑心暗鬼にすることで、結託できない状況を作り出していたんですね。

この事件の表面だけ聞くと、誰しもが被害者に対して「逃げりゃいいじゃん」って思うと思うんですよ。犯人がヤクザとか、暴力的な男であれば言いなりになってしまう気持ちも分かるんですけれど、ただの中年女性ですからね。逃げ出したり、やり返したりすることは理論上はできたはずなんですよ。

では、なぜ被害者たちがそうできなかったのか。

その点がこの小説を読んでいると妙に納得できるんですよね。そこがこの小説の一番すごいところだと思っています。

実際の「尼崎事件」って、実は未だに解明されていない部分が多いんですよ。とにかく被害者が多すぎるのと、犯行から発覚まで数十年の期間が空いてしまっているわけですからね。

ただ、この小説では未解明な部分があるとは思えないくらい、被害者たちが洗脳されていく過程が詳細に書かれているんですよ。

作者の葉真中さん自身が相当この事件について調べられたんだろうなというのと、恐らくは一部フィクションとして補完されたであろう部分もあると思います。それが全く違和感なく、物語として溶け込んでいるんですよね。

それだけのリアリティがあるからこそ、読者にとってはこの事件が他人事にならないんですよね。実際に凶悪事件が起こった時とか、ニュースで見たりネットで調べたりしても、自分に起こりうるとは思わなくないですか?「あーすごい事件だね」で終わってしまうというか。

この小説は、被害者の人間らしい部分がしっかりと書かれているんですよ。「弱っている時に人に優しくされたら、たとえそれが他人であっても頼っちゃうよな」と。これって被害者が特殊だったからではなく、人間誰しも心当たりがあることだと思います。

だから、読んでいて被害者に対して同情すると同時に、読者である自分も被害者になり得たかもしれないという恐怖をより引き立ててくれているんだと思います。

これは、実際の事件では明らかになっていない部分をフィクションで補完する事で、逆にリアリティを高めてくれている、非常に凄いところだなと思いました。

文章構成的に時間軸も入り乱れていて登場人物も多いので、決して読みやすい本とは言えないかもしれませんが、人間の持つ底なしの悪意に触れてみたい方未解決事件や凶悪事件に興味がある方には、おすすめの一冊となっております。

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